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日本人は、ビジネス英語において、やたらと受動態をアウトプットしたがります。
が、なぜか、その受動態が、とても苦手のようです。英文のライティングをしてして、そこで失敗してしまう方がとても多いのです。
いちばんやっかいなのは、失敗しても、自覚がないケースです。
なぜやっかいかというと、英語の受動態の失敗は、日本語で「てにをは」を間違えるよりも、はるかに大きな文法的なダメージがあるのに、それに気づいて訂正することができないため、英文自体が「崩壊」したまま、外国人に送ってしまうのです。

これは「スクランブルエッグ」ではありません!
ビジネス英語で最も信用を無くす失敗
以前勤務していた会社で、日本人が書いたシステムサポートの障害チケットの中に、
“IF XXX occurs when cable is remove”
となっているものがありました。ちなみに XXX は、機器の中に起こるある問題を示しています。
このセンテンスの when 以降が、典型的な、受動態における失敗です。
cable is remove
は、それをいうなら、
the cable is removed.
でしょう。
ここで、よくある言い訳に、
「たったの “d” 一文字をつけなかっただけだろう。こちらはネイティヴではないわけだし、この程度のミスは、相手に許容してもらえる。
「同じ人間どうし、最終的には意味が伝わればよい」
というものがあります。
これは実は、テニスをプレーしていて、
「こちらのコートで、ギリギリ2回バウンドしてしまっただけだ。この程度のミスは、相手に許容してもらえる。
「最終的に、打ち返した球が相手のコートにかえったから問題ない」
と言っているのと同じです。
(テニスのルールでは、ボールが自コートで2回バウンドした時点で、相手のポイントになります。)
つまり、相手のネイティヴは、決して口に出しては言わないだけで、すでに、
「そうか、この相手は、いちばん基本的なルールを、平気でやぶってくる低レベルな英作文力しか持ち合わせていないのだな。信用できない」
と、感覚してしまっています。
この誤りがどれほど致命的かを自覚していないことの方が、ミスしたこと自体よりも、罪深いと思います。
逆に言えば、受動態の失敗さえ回避してしまえば、最初の関門はクリアでき、一気に外国人と「文法上の信頼関係」が築けるということでもあります。
(上記のセンテンスは、これ以外にも、文法的に深刻な誤りをおかしているのですが、ここではあえてふれません。)
ここでは、おそらく史上初の、以下の画期的な議論を行いたいと思います。
1)そもそもなぜ、日本人は、受動態をやたらと書きたがるのか?
2)そのくせなぜ、日本人は、英語の受動態を書くのが苦手なのか?
2)では、受動態で失敗しないための処方箋は?
トラブルメーカー:ビジネス英語の受動態……
「牛乳があっためたー」♪
私の娘たちは、電子レンジで牛乳を温めて飲むのが大好きです。
二人とも、飲みたくなると、「(牛乳を)あっためて」といいます。
娘たちは、もっと幼かったときは、電子レンジがチンと鳴ると、
「あっためたー」
と、親をせっついていました。
大人なら、「それを言うなら、『あったまった』だろう?」と指摘するところでしょう。
常に主語が明示的な英語と違って、日本語のやっかいなところは、娘たちは、以下のように主張することもできるということです。
「私が省略した主語は実は『電子レンジが』である、したがって、『あっためた』という述語で間違いではない」
(未就学の子供が、このように理路整然と主張するのは、かなり微妙な感じですが……。)
もう一つ考えていただきたいのは、
a)「牛乳が温まった」
を、主語が略されていない前提で、英語に翻訳するとどうなるだろうか?です。
試しにこのまま Google 翻訳してみると、
a) “Milk warmed up.”
となります。
これは、たいへん興味深い結果です。
なぜなら、この英語を受動態から be 動詞を省略した形と考えない場合(Google 翻訳はたぶんそんなことはしないと思います)、
「牛乳が(何かを)温めた」
といっているからからです。
主語と目的語が、見事に入れ替わっていますね。かつ、目的語をすっとばした文です。さらにいうと、当然あるべき冠詞 The が milk の前に来ていません。
Google 翻訳のエンジンの後ろに小室哲哉氏が隠れて翻訳を行っているのではないかと思うほど(笑)、日本人の英作文として典型的ミスが3つも、この短いセンテンス?の中に凝縮されてしまっています。
実はこれ、日本語そのもののせいなんです。
※ちなみに、これを Google 翻訳で「逆翻訳」してみると、
「ミルクウォームアップ」
と、牛乳がこれからスポーツをすることになってしまいました(笑)。
すでにお気づきの通り、「牛乳が温まった」は、実は、意味的には、
a’)「牛乳が温められた」
という受動態だったのです。
後者の日本語なら、Google も正確に
a’) The milk was warmed up.”
と訳出してくれます。
また、Google 翻訳は悪くない、悪いのは使う日本人、という検証ができました。
知らないとビジネス英語で恥をかく!
日本人に典型的な受動態のミス
これから、昔の日本人が受動態でミスをしてしまったせいで、そのまま日本人の潜在意識に刷り込まれてしまった、英語になっていない「日本語英語」を3つとり上げます。
「スクランブルエッグ」は日本にしかない料理
突然ですが、「スクランブルエッグ」なる料理は、日本にしかないことをご存じでしょうか?
わたしは、このカタカナ料理名を聞いたとき、大きな違和感というか、座りの悪さを感じます。多くの英語ネイティヴも同じ感覚を持つはずです。
例えば、私が娘のために、この料理を作ったとします。
a) My dad scrambled the eggs. (パパが卵をかき混ぜた。)
が、もともとの文のはずです。文の構造的には、「電子レンジが牛乳を温めた」というのと全く一緒です。これを受動態に書き換えます。
a’) The eggs were scrambled by my dad.(卵は、パパによってかき混ぜられた)
そして、これの語順を変えると、はれて、”scrambled eggs” のできあがりです。
つまり、”scrambled eggs” とは、
「(料理した人間に)かき混ぜられた卵(しかも複数卵を使っていると明示されている)」
という料理名なのです。
「スクランブルエッグ」という言葉の中には、主語が不在です。
牛乳があっためた
と言っているのと、文法的にはたいして変わらないレベルです。しかも、卵を一個しか使っていないため、できあがったものは、かなりしょぼい感じになるはずです(笑)。
下の写真を、参考までにご覧ください。わたしがインドのホテルで朝食のときに撮影してきたものです。

Omelette
FriED
ScramblED
PoachED
Over Easy
FriED、ScrambleED、PoachED、いずれも受動態の形をしていますね?
長い間UKの植民地だったインドも、
「卵自身は料理しない」
ことを深くわきまえているのです。
卵は常に料理される側です。
“CLOSE” は「閉店」ではなく失礼な命令だった!
もう一つ、あるあるをとりあげましょう。
深夜から早朝にかけ、飲食店が下記のようなサインをドアなどに掲げているのを、日本国内で見かけたことがないでしょうか?

ビジネス英語でこのような失敗すると致命的!
b) Sorry, now…CLOSE
はい、違和感を感じましたか?見た瞬間に、めちゃくちゃだと感じなければなりません。
日本に来たばかりのネイティヴがこれを見たら、「……は?なんで?」と一瞬なった後、苦笑いを浮かべると思います。
一方、下の写真は、私がイングランドのひなびた地方都市で撮ってきたものです。
フィッシュアンドチップスがおいしいと評判の店に、アップダウンが厳しい石畳の道を20分以上かけて歩いて行ったら、ランチタイムがちょうど終わったばかりで、このような看板を見ることになりました(泣)。

英語のわかったネイティヴ版の看板、こうじゃなくちゃ
b’) Sorry we are CLOSED.
CLOSED となっていますね。
一見、Dが付いているかどうかだけの些細な相違に見えますが、二つの看板の間には、意味的に、それこそ大海原を隔てたくらい違いがあります。
よく考えてみましょう。”to close” は、もちろん動詞です。
そしてビジネス英語で動詞が原形のまま出てくるのは、命令形のときだけに限られます。
しかも、please やさらに丁寧な “Could you…?” などの表現抜きに動詞をむき出しにしていいのは、相手が命令されても不愉快にはなりえない、誰が見てもそのほうが望ましいケースのみに限られます。
例えば、病欠 a sick leave をとった相手に対して、
c) I am sorry to hear that. Take care.
大変ですね。お大事に。
d) Do have a good rest.
ゆっくり休んで。
とメールを返すような場合や、パーティや休暇などを近々に控えた相手に対して、
e) Enjoy!
楽しんで!
と、「命令」するときです。
※正確には、例えば軍艦や潜水艦の指揮官が、通信や艦内放送のメッセージを伝える前に口にする、
“Send. “「達する。」
という表現のような例外がありますが、そんな例外は、およそビジネス英語で考慮する必要はありません。
さて、このことを考慮して、もう一度、日本国内にしかない看板を見直しましょう。
b) Sorry, now…CLOSE
すみません、いま…(たぶん、このドアを)閉じろ
……ううむ、店主さんも店員の皆さんも、本当に大丈夫でしょうか(汗)?となってしまうのです。ドアはすでに鍵付きで閉まっているし(大汗)。
ちなみに「たぶん」と書いたのは、正確にはわからないからです。
というのも、”to close” は他動詞なのに、目的語がないからです。また、日本人英文ライティングのあるあるが出てきました。
b’) Sorry, we are closed.
イングランドの地方都市で見かけた看板 “CLOSED” は、もとをただせば、由緒正しい受動態なのです。
これで初めて、自分たちの店が(自分たちによって)閉じられている、つまり現在は開店してない、とのメッセージを発することができるのです。
日本人は、英語の受動態を使いこなすのが、もともとうまくないのです。
e-wordsも…ああ、恥ずかしいミス……(汗)
さて、ここでもう一つ、IT技術者にとっては笑えない例を挙げておこうと思います。
皆さんが日常的に使っていらっしゃる、UTPケーブルの最初の3文字は、何の略称でしょうか?まずは思い出してみてください。
その後、下記のリンクをご覧ください。
ビジネス英語で絶対やってはいけない恥ずかしいミスを、e-words が思い切りしまっている例
やり玉にあげさせていただいた e-words だけが恥ずかしいわけではありません。ほかにもこのように記載しているIT辞典、いくつかあります。
ここに堂々と記載されている
f) Unshielded Twist Pair cable
という「フルスペル※」は、思いきり間違いです。
(※「フルスペル」の中にも、”spell” という動詞が、原形むき出しで放置されていることがお判りでしょうか?
“in full spelling“
としなければ、わけがわからないのです。
形容詞である full は動詞につけることができません!動詞につけるのなら、副詞 fully としなければなりません。)
もしかすると、非シールド撚り対線(よりついせん)という日本語訳が、混乱をもたらしているのかもしれません。
正解は、
f’) Unsheilded Twisted Pair cable
すなわち、
「シールドされていない撚られ対線」
です。
誰かが/何かが撚りをかけない限り、UTPはできません。scrumbled eggs を作るのに、誰かが卵かき混ぜる必要があるのと全く一緒です。
f”) A factory machine twisted a pair of cables into one.
工場の機械が、二つのケーブルをよって、一本にした。
↓(受動態へ変換)
f”’) This one pair of cables was twisted by a factory machine.
この一対のケーブルは、工場の機械によって、より合わされた。
とでもいうべき「歴史」をまとめて表現したのが、”Twisted pair cable” です。
”Twist Pair cable” では、動詞が原形のままむき出しです。つまり、”CLOSE” という、失礼な看板と一緒です。
つまり、買った人が自分で撚ってください、という名称になってしまっているわけです。
(これも無理に解釈しています。”Twist Pair cable”では、購入者が自分で撚る場合でも、英語になっていません。)
ここで本当にわけがわからないのは、 “Unsheilded” のほうは、なぜかきちんと受動態の形をなしている点です……。
ちなみに、”Unshield Twist Pair”とダブルクオーテーションつきで Google 検索をかけると、日本のサイトとタイのサイトだけが出てくるはずです。
日本人がビジネス英語の受動態が苦手な理由を探れ!
でも実は日本人は徹底的に受動的!
ここまでいろいろなミスをあげつらってきて我ながら非常に感じ悪いと思うのですが(汗)、わたしがここで議論したいのは、
なぜここまで日本人は英語の受動態が不得意なのか?
です。
わたしはずっと横浜育ちのせいもあり、ランドマークタワーが好きです。竣工当時は全く汚れがなく、タージマハルみたいな白亜の美しい塔でした。いまは外見は少し汚れてしまいましたが、その展望台からは相変わらず絶景が見えます。晴れた日には、遠方にはるかに臨める富士山が最高です。
さて、その展望台の入り口に、ときどきこんな看板が掲げられます。

Mt. Fuji is seen now. 文法的には正しい訳です、しかし……
a) Mt. Fuji is seen now.
只今、富士山が見えています。
この看板を見た、ランドマークタワーに一緒に遊びに行ったスウェーデン人が、
「なんでわざわざこんなもってまわった表現つかうの??」
と私の顔を見て、不思議そうな顔をしました。
みなさんはいかがでしょうか?この訳文は、文法的には完璧です。しかし、ご覧になって、変な感じはしませんか?
ヒントをもう一つ。おしゃんなビジネス英語をアウトプットしようの回で取り上げさせていただいた、新幹線の中のテレカ電話機の説明の翻訳です。
b) Calls from this payphone can only be made using a telephone card.
この電話はカード専用の公衆電話です。
すでにお分かりの通り、両方とも、日本文が受動態、もしくは「受動態風」になっています。
これをまんま翻訳しようとしたため、それぞれ「富士山」「電話」というモノを主体にせざるを得ず、英語も受動態にしているのです。
a) Now you can see Mt. Fuji!
というほうが、はるかにぴんとくるのです。
こちらは逆に、皆さん、違和感を覚えませんか?
わたしはこれを見た瞬間、
これだ!これこそ日本人が、苦手にもかかわらず、英語の受動態をたくさんアウトプットする根本原因だ!
と叫びだしそうになりました。
c) のもとになっているのは、おそらく下記のような英語です。
c) As A asked me to do this
これなら、全く不自然ではありません。
しかし、c) はみなさん、なんか変ですよね。
c’) Aさんに頼まれたため。
なら、するっと入ってきます。
ここに、我々日本人の、「遠慮文化」とでも称すべき感覚が働いています。
Aさんを主語にしてしまうと、なんとなくAさんを
「こんな面倒なことさせやがって」
と糾弾しているようで押しつけがましく感じてしまうのです。そこをぼかそうとして、自分を「目に見えない主語」にし、直接的表現を避けるわけです。
この気持ちが、英文のときにも受動態が大好きという形で表れてしまうのです。
しかし、受動態は、
「誰が、どうする/どうした、何を」
をがっつり理解していない限り、こけやすいです。能動態より構造が複雑だからです。
a) You are able to see Mt. Fuji now!!
只今富士山を見ることができます!
b) You cannot make a call without a telephone card.
テレカなしでは電話がかけられません。
英文のときは、このような能動態の方が、はるかにすっきりします。
You を主語にしたセンテンスは、外国人には、より生き生きと、かつシンプルで分かりやすいと感じられます。受動態にすると、「なんだかもってまわった、仰々しい表現だ」と、逆にしきいの高さを感じます。
ここで遠慮する必要は全然ないわけです。
やっかいな日本語の「は」「が」「に」
実は、言語のレベルでも、日本人が英語の受動態を「不得意とせざるを得ない」問題があります。
それは、日本語の助詞「は」「が」「に」です。これらが、本当の主語/主体(Subject)を曖昧にしてしまうのです。
以前とりあげた例文です。
d)「象は鼻が長い。」
d1)「象の鼻は長い。」
The trunk of an elephant is long.
d2)「象は長い鼻を持っている。」
An elephant has a long trunk.
あらためて見直すと、「は」や「が」が来たからといって、必ずしもそれはその前の単語が主体(Subject)であることを保証しないという事実が浮き彫りになります。
e) 伊達公子はライジングショットがうまい。
Kimiko Date can hit a rising shot pretty well.
f) ライジングショットは、ボールがバウンドした瞬間を叩いて打つ。
You can hit a rising shot by hitting the ball immediately after it bounces.
g) メモリを開放するのに、APIが使える。
You can use this API in order to release the memory.
上で見たとおり、実は、「に」の前に主体が来るフェイントも日本語にはあったりするわけです。
g) Aさんに頼まれたため、この申請を行います。
I am making this application as A asked me to do it.
各センテンスで主語がてんでばらばらで、助詞と主語の位置に関して、およそ規則性がありません(汗)。
日本語が適当すぎて頭に来ましたか(笑)?わたしなどは、ここが日本語の詩的なところだと思いますけれど。
この日本語の融通無碍(ゆうづうむげ)な特性、別の言い方をすると、とてもチャランポランなところを踏まえると、
1)日本人がビジネス英語で受動態を使いたくなったら、時間をかけて、「誰が、どうする/どうした、何を」を念入りにチェックすべきだ
という、とても面倒な原則がでてきます。
なぜなら、受動態は、これらが非常にクリアでない限り、記述できないからです。
この関門を無事突破したとしても、次には、
2)複雑きわまる文法構造を持つ英語の受動態を、ミスなく記述する
という新たな高い関門が待ち受けています。
試しに、上の例文を受動態にしてみます。
f’) ライジングショットは、ボールがバウンドした瞬間を叩いて打つ。
A rising shot can be hit if the ball is hit immediately after it bounces.
g’) メモリを開放するのに、APIが使える。
This API can be used in order to release the memory.
↑とくに f)、正確に書くのは、相当骨が折れるんじゃないでしょうか……?
これらを確実にこなさないと、ここで間違えたら最後、英語の文章がしっちゃかめっちゃかになり、意味をなさなくなるか、おおはばに誤解されてしまうのです。
面倒くさすぎませんか?
では、どうしたらいいのでしょうか?
このブログでは、受動態への対応方法を引き続き議論していきます。