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Google 翻訳ってビジネス英語では使えない!?
よく、「ビジネス英語で Google 翻訳を使っているのだけど、アウトプットされてくる英訳の質は高くないですよねえ」と、同意を求められます。
申し訳ないのですが、同意できません(汗)。10年前の Google 翻訳ならいざ知らず、現バージョンは非常によくできた翻訳エンジンです、 Google 翻訳。驚くほど賢いです。
では、なぜ、「使えないもの」と評価したくなってしまうのでしょうか?
ビジネス英語で Google 翻訳を使うには、秘訣があったのです!
このページでは、私が使っている「秘伝の」コツを紹介いたします。
Google のせいにはできないそもそも論
いつまでたっても「。」が出てこない……
フランスに、Rene Descartes という、哲学者がいます。有名な思想家ですが、この人の文章をフランス語で読んでみると、まあ、はんぱなく長いのです、これが(汗)。
いつまで経ってもピリオドがえんえん出てこない。
よく彼は「世間という書物から」学んだと日本ではいわれますが、それが誤訳だということがわかる以下の文章などは、その典型例です。
C’est pourquoi, sitôt que l’âge me permit de sortir de la sujétion de mes précepteurs, je quittoi entièrement l’étude des lettres; et me résolvant de ne chercher plus d’autre science que celle qui se pourrait trouver en moi-même, ou bien dans le grand livre du monde, j’employai le reste de ma jeunesse à voyager, à voir des cours et des armées, à fréquenter des gens de diverses humeurs et conditions, à recueillir diverses expériences, à m’éprouver moi-même dans les rencontres que la fortune me proposoit, et partout à faire telle réflexion sur les choses qui se présentoient que j’en pusse tirer quelque profit.
Descartes, René. Discours de la méthode
「以上の理由で、わたしは教師たちのへの従属から解放されるとすぐに、文字による学問 〔人文学〕をまったく放棄してしまった。そしてこれからは、わたし自身のうちに、あるいは世界という大きな書物のうちに見つかるかもしれない学問だけを探求しようと決心し、青春の残りを使って次のことをした。旅をし、あちこちの宮廷や軍隊を見、気質や身分の異なるさまざまな人たちと交わり、さまざまの経験を積み、運命の巡り合わせる機会をとらえて自分に試練を課し、いたるところで目の前に現れる事柄について反省を加え、そこから何らかの利点をひき出すことだ。」
谷川多佳子訳「方法序説」(岩波文庫版)
注目していただきたいのは、訳者 谷川氏が、この Descartes の長い長い一文に、いくつの読点「。」をいれているか?です。実に、原文にない読点を、3つ挿入しています。
ちなみに、英語訳だと、私が持っている The Rosetta Series のものでは、原文にないピリオドがやはり1つ余計に挿入されています。
ビジネス英語では、いやビジネス英語でなくても、この手の長文は、読み手に「面倒だ」と思われてしまいます。フランス語のネイティヴだって、こんな文章読まされたら、文章の中を前後に行ったり来たりしてしまうと思います。
ビジネス英語では文章はざく切りに
ビジネス英語は哲学ではありません、誰でもサクッと理解できて、
「ここのところ、どういう意味ですか?」
という、みっともない質問が極力来ないのが理想です。
したがって、できるだけ短文で打つほうがよいのです。
ビジネス英語を短文で打つことのメリットは、全部で三つです。
長い文章を書くのは、そもそも相手軸に立っていない
こまめに読点「。」/period “.” を挟まない、
「……ですが、……であり、……となるため、……」
と、えんえん句点ばかりのメールは、日本文であっても読みにくいものです。特に私はこの「(の件)ですが、」を、絶対に日本語のメールに書き込まないようにしています。意味がなく、余計だからです。
上記は以前にも書きました。これもまた、ビジネス英語うんぬんの前に、そもそも相手軸に立っていないからこうなるのです。
相手の関心事にアドレスできる人間なら、日本語だ楼が英語だろうが、最初の読点までの短い文章で、一気に自分の主張をコンパクトにまとようとするはずです。
不要な「カンマ+接続詞」を挟んでしまっている
以下は、私がかつて、あるベンダから受け取ったメール、ほぼ原文のままです。
a) I submit report, so please check it.
たぶん、こう書きたかったんでしょう。
a’) We are submitting the the report, so would you please check it.
この記事で問いたいのは、
「本当に “, so” は要りますか??」
です。下記ではなぜいけないのでしょうか?
a”) We are submitting the the report. Would you please check it.
おそらく、「報告をご提出申し上げます『ので、』ご確認いただきたく」とおっしゃりたいのでしょう。気持ちは痛いほどわかります。わたし自身もそんなメールを書いていたことが、昔、ありました。しかし、申し訳ないのですが、不要です。
いまのわたしなら、もっとばっさり短くします。
a”’) Would you please find out the report in the attachment.
このようにメールされたら、添付の報告書を、受け手は確実に開いて確認すると思います。メールの内容を文面どおり受けとって、
「ああ、確かに添付ファイルを見つけたぞ」
とつぶやいて終わりにする受信者はいないでしょう(笑)。
つまり、もともと、「ご確認ください」が余計なのです。
さらに残念なことに、言葉を足して冗長にしたわりには、a) は、結果として、つっけんどんなトーンの依頼になってしまっています。
please だけで依頼ができるのは、レストランで給仕をして下さる方など、こちらがサービスのためにお金を支払っているから、対応してくれて当然、という場合に限られるからです。
わたしの知り合いは、ロンドンに旅行して、日本国内のように “Coffee.” とだけ(意図せずぶっきらぼうに)注文したら、
“You forgot to say ‘please’.”
とカフェのウエイターに注意されたそうです。
内容をダイエットしてシンプルにすれば、『ので、』に出番などありません。よって、a”’) は a) に比べて、より丁寧にするために原文と比較してワード数を増やしたにかかわらず、読みやすく、わかりやすくなっています。
これなら一撃でわかります。
ちなみに、…, so…, so…とやたらセンテンスをつなげてくる人は、日本人以外にもたくさんいます。いちばんひどい例では、4つ連続して “, so” でつなげられた文章を見たことがあります。
”so” とアウトプットしたくなったら、その瞬間に、「これ本当に必要?」と疑いましょう。
ちなみに、”so” をどうしても使う必要がある場合、すかさず because に変換することをオススメします。しかも、because は、原則として文頭に持ってきてはいけません。
「この追加作業には時間がかかりますので、今回のリリースではなく、次回のリリースとさせていただきたくお願い申し上げます。」
b) Unfortunately, this additional work would take some time to deal with, so, would you please allow us to include it in the next release, not in this release.
so がでてきました。
b’) Unfortunetely, because this additional work would take some time to deal with, would you please allow us to include it in the next release, not in this release.
because に置き換えます。
b”) Would you please allow us to include it in the next release, not in this release, because, unfortunately, this additional work would take some time to deal with.
because から続く文を、後回しにします。
b”) がベストです。なぜなら、結論ファーストになっているからです。言い訳、理由は、原則的に後回しにしたほうがよいです。
日本人には、相手の感情を損ねるのではと、意図的に結論を後回しにしてしまう傾向がよく見られます。それは、英語でも必ずしも的外れというわけではありません。しかし、上のように unfortunetely を使うなど、結論ファーストなのに相手の感情を損ねにくい方法は、英語では、実は日本語よりはるかに豊富に準備されているのです。
安心して結論ファーストにしてください。
Assertive communication や positive politeness strategies については、本ブログでも、独立した章で念入りに議論します。
文章が短ければ短いほど文法ミスの危険が減る
ビジネス英語に直すとき、もともとに日本語が長文のままだと、しなくても良い苦労をしてしまいます。
以前取り上げたベンダのCTOの方の冒頭の日本語メッセージが、典型例です。この方が早々に「英語で対応する文言が分からない」と両手を挙げて降参してしまった理由の一つが、間違いなく、
「自分が思いついた最初の日本語文がそもそも非常に長かったから」
です。
もう一度、引用してみます。
ベンダ: 英語で対応する文言が分からないので日本語で記述します。
「××モード」など、アプリ〇〇が動作する上で、各□□が別プロセスで動くのかメインフレームと同一プロセスで動作するのか、また XYZ は 32bit で動作するのか、64bit で動作するのかが決まってきます。これは OS が 64bit かそうでないかの掛け合わせにもなります。
このベンダのCTOは、明らかに、好んで墓穴を掘っています。そもそもこの文章がきちんとした日本語の態(てい)をなしていないという点は100歩ゆずっておいておくとして、この文章の最初の一文には、句点がなんと4つも入っています。
自分に時間がないからと、打ったまんまをパッと送ってしまっているのがありありとわかる文章です。
そりゃあ、自分で訳せないわけですよ……。
「限界利益とは、売上から変動費を引いたものであり、限界利益率とは売上に占める限界利益の割合を指し、さらにその限界利益から固定費を引くと経常利益になる。」
本当に↑のような文章を書いてくる方がいます。こんな文は、英訳してもめちゃくちゃになることは、目に見えています。
日本語の段階で、下記のように書くべきです。同じ内容が一瞥で理解できますし、単語を英語に変換するだけで、外国人にも一発で通じます。
限界利益 = 売上-変動費
経常利益 = 限界利益-固定費
限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高
ビジネス英語で Google 翻訳を使い倒す
魔法のテクニック
次のように言いたい場合を考えてみましょう。
あなたが外資勤務で、日本市場への投入のため、ある自社製品Aに、新規に機能搭載を本社に要望しているというシナリオです。
「Aには現時点では搭載予定のない本機能は、日本市場の大量販売にはどうしても必要なものと思われ、かつ、競合の動きからすると、来年前半までには実装が望まれます。」
ぱっと見、ムズッ!という感じですが、理由の一つは、文章が少し長いことです。かつ、前半と後半で、別の話をしてしまっていますね。
前半:本機能は日本市場に必要
後半:いつまでに必要か?
日本語の段階で、同じセンテンスで二つのチャンクの話をしてしまっています。日本人による英訳がおかしくなる、典型例なサインの一つです。
試しに、このまま Google 翻訳にかけてみましょうか。
This function which is not planned to be installed at A at present is thought to be absolutely necessary for mass sales of A market, and from the movement of competition, implementation is desired by the first half of next year.
ぎりぎり意味は通りますが、思ったとおり難解です(笑)。これを読み返さずにすらっと理解するネイティヴはいません。これ、Google 先生は、全然、悪くないんです。むしろ、今の翻訳エンジンのアルゴリズムは凄まじく進歩したなと、この訳文を見て舌を巻きました、わたし。
一つのセンテンスで一つのチャンクについて、かつ、できるだけシンプルに語るために、文章を分けましょう。
「Aには、本機能は現時点で搭載予定がありません。
この機能は、Aの日本市場の大量販売にはどうしても必要です。
競合の動きからして、来年前半までには搭載が望まれます。」
ここで、このブログでこれから取り上げていくテクニック
「的確な主語を選択する」
「最も簡単な表現・語彙を選択する」
を当てはめます。
ちなみに「競合の動きからして」は、意味が漠然としているので、補強します。
「Aは、いま、この機能を持っていません。その機能の実装予定もありません。
私たちは、Aを日本市場に大量販売するため、この機能が必要です。
競合もこの機能を導入し始めているため、来年前半までに、この機能の実装をお願いいたします。」
原文と比較して意味はずれていませんね?これも Google 先生に訳していただきましょう。
“A does not have this function now, there is no plan to implement that function. We need this function to mass sell A to the Japanese market. Competition is starting to introduce this function, so please implement this function by the first half of next year.”
さてさて、お立ち会い(……古い……)、このブログがしつこく主張している、
「日本語の段階で論理的に悩んでおけば、英語力のせいだと今まで思っていたコミュニケーション上の問題の90%以上が解決してしまう」
を、はっきりと証明してみせます。
(超重要なので、いろいろフォントを加工しました(笑)。)
これを、さらに Google 翻訳に邦訳させてみます。というか、すでに表示されていますね、「訳し直し」の文章が。わたしは翻訳エンジンを普段全く使わないので、こんな機能があることすら知りませんでした……。
「Aには今この機能がありません。その機能を実装する計画はありません。
日本市場に A を大量に売るにはこの機能が必要です。
競争はこの機能を導入し始めているので、来年の前半までにこの機能を実装してください。 」
どうです?ほぼ完璧な日本語じゃないでしょうか?
短い日本語は、Google 翻訳すら「わかりやすく感じる」わけです。というか、 Google 翻訳の訳文のわかりにくさは、全然 Google のエンジニアのせいではなかったということです。
英文を短くするとカッコ悪い、という考え方が、ネイティヴの中にはあるのを、私も承知しています。それに対しての反論は簡単です。
以下の (1) は、(2) よりもビジネス英語として優れている:
(1) カッコ悪くても意味が通じやすい英文
(2) カッコよくても相手から質問を受けてしまう、もしくは、相手が読むのに時間がかかってしまう英文
ビジネス英語をアウトプットするとは、度胸でもなければ、カッコよさでもないのです。
もちろん、機密情報は Google 翻訳に書き込めませんが、ここに書いたテクニックを使って、上手に Google 翻訳を使い倒していただきたいと思います。
ビジネス英語で Google 本体を上手に使う
いまの Google 翻訳はとても使い勝手のよい優秀なツールですが、機密情報を含む日本語文をフルセンテンスを入力してしまうのは、セキュリティ上問題が大きいです。かつ、そもそも、これに頼りすぎると英文ライティングの力がいっこうに向上しません。
そこで、検索エンジン Google に、自分が書こうとしている英文を入力します。実は、かつて取り上げた例文
1)「象の鼻は長い。」
The trunk of an elephant is long.
2)「象は長い鼻を持っている。」
An elephant has a long trunk.
も、Google に elephant, long, nose といった単語を入れてみて、見つかった文章から起草しています。象の鼻を trunk と呼ぶのを、Google にこの文章をかけてみるまで、わたしは知りませんでした。
Google を使いこなすためには、クオテーションマーク(””)を使いこなす必要があります。たとえば、「APIが使える」という文章を思いつき、これに “API can use” という英文を訳文として当てたいと思ったとします。この英文に対しては、Grammarly は、「目的語が必要だ」というもの以外、ツッコミを入れてきません。
そこで Google に、
“API can use”
のように、クオテーションマークで囲った上で投入します。これは、”API can use” という塊しか検索しないというコマンドです。すると、
A REST API can use this status code to…
のように、API「が」何かを使用できる、という検索結果が返ってくるため、これは間違いだったのだな、と気づきます。
英訳を行うときの Google の使用テクニックについては、下記の本が非常に参考になります。