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知っているとお得!英語スピーチのコツ
ばか話につきあっていただいてすみませんが、ウルトラセブンの自己紹介をもう一度ここに書いて、解説します。セブンの自己紹介は、ピラミッド・ストラクチャにより、構造化されているからです。
<ウルトラセブンの自己紹介>
1. 「M87星雲からやってきたウルトラセブンです。40年以上、宇宙人を撃退するプロとして、銀河を股にかけて仕事してきました。
「ウルトラ警備隊に属して地球を守っていたときは、40体以上の宇宙人の撃退に成功しています。むろん、私のスキルと経験は対怪獣用としても使えますが、どちらかといえば、ずる賢い宇宙人と知恵比べをして勝ち、最終的に力技で撃退するのが得意です。
2. 「主な必殺技は、
アイスラッガー
エメリウム光線
ワイドショット
の三つです。アイスラッガーは、私の頭に乗っているこれを投擲して相手を切り裂くもので、残りの二つは光線技です。
「いずれも実戦で威力は証明済みですが、お望みなら、のちほど使い分けを解説いたします。
3. 「というわけで、今回の求人のニーズに最適の人材だと自負しております。よろしくお願いいたします。デュワッ!」
セブンは、宇宙人にフォーカスした求人であることをわきまえた上で、自分が何者であるかを、まずはコンパクトに伝えてきました(1. の冒頭部分)。その後、プロとしての実績を、地球防衛の任に当たっていた時代に倒した宇宙人の数で具体的に示しています。
(ウルトラマンは、数を示すことなく、いきなり、対決した怪獣一体一体の話を始めてしまいました。後で訊かれたら言い足せば良い、具体的すぎる、詳細すぎる情報です。)
念のため怪獣も倒せることにも触れた後、セブンは、自らの必殺技を三つ、並べています。さしづめ、ウエブアプリケーション・ソフトウェアエンジニアの自己紹介なら、Java と JavaScript と Ruby が書けます、といったところでしょうか。ちなみに、セブンには他にも威力のある必殺技があるのですが、三つにするために、意図的に端折っています。
そして最後に、しめくくりとして結論を再度述べ、効果的にアピールしています。
セブン氏のプレゼンは、実は、欧米の学校教育で教えられている、英語スピーチのストラクチャ(構造)にのっとっているのです。
1. <Introduction 導入>自分が主張することの結論を、聞き手の関心事に直接アドレスした形で、冒頭に述べます。
2. <Body 論拠>結論の根拠。三つの理由があると、スピーチは安定した構造になると言われています。
これは、コンサルタントが、「三つあります」で話し始めるのを習慣化しているのと同じことです。
人間の脳は、三つのポイントを挙げられると、スムーズに内容を理解できるようにできています。
3. <Conclusion 結論>再度、しめくくりとして、結論を述べます。

相手の関心事にアドレスした、注意を引きつけるスピーチ
結論ファースト、そのあと、3つの論点でそれを補強する。これがピラミッドストラクチャです。スピーチに限らず、ビジネス英語をアウトプットするありとあらゆる場面で使える、最強といっていいフレームワークです。
私なんぞは、上司に報告するときに、まずは「三つあります」と大見得を切ってしまってから、内容を話しながら即興で考えることすらあります(汗)。
英検1級の二次試験は、極めて短い時間で行うインプロンプトスピーチ(お題を与えられてその場で考える、即興のスピーチ)です。この試験にパスするためには、ピラミッドストラクチャをもつエレベーターステートメントに、自分のスピーチを成形する必要があります。
セブン氏の自己プレゼンテーションもまた、そのままエレベーターステートメントになっている、とお気づきでしょうか。
「いずれも実戦で威力は証明済みですが、お望みなら、のちほど使い分けを解説いたします」のところで、セブン氏は、意図的に詳細な情報を削除しています。
セブン氏は、面接官の時間を尊重して、自分の必殺技を紹介する際、まずは Overview (概要)を提示し、「必要なら詳細は後から解説します」と提案したのです。これにより、メッセージ全体の焦点がぼやけることを回避しました。
楽して英語のメールを打つ
ピラミッドストラクチャのとなれば、Barabala Minto 氏を紹介せざるをえません。ここに引用する彼女の著作は、ピラミッドストラクチャという言葉を、全世界に広めました。
わざと、英文のまま、その主著 “The pyramid principle” の 9 ページのを引いてみます。
これは、バーバラ自身が読者に語りかけたという体裁の例文です。
Ordering from the top down(トップダウン形式)
1. I was in Zurich last week – you know what a conservative (保守的な)city Zurich is – and we went to lunch at an outdoor restaurant. Do you know that within 15 minutes I must have seen 15 people with either a beard(口ひげ) or a mustache(あごひげ).
And you know, if you walk around any New York office you can rarely find even one person who doesn’t have sideburns(もみあげ、ほおひげが繋がったもの) or a mustache.
And of course facial hair has been a part of the London scene for at least 10 years.
この後バーバラは、読者の気持ちを代弁します。ああ、わかった、ついにバーバラの言いたいことがわかったよ。ロンドンが、これらのヨーロッパの都市の中でひげファッションの最先端だっていいたいのか。いやいや、とバーバラは言います、読者は完璧に論理的なのに、その推論は間違いだと。
実はバーバラが言いたかったのは、
2. You know it’s incredible(信じられない)to me the degree (程度、度合い)to which facial hair has become such an accepted part of business life.
In Zurich…
In New York…
And of course in London…
この記事をお読みの方に考えていただきたいのは、この内容を英文メールで受けたときのあなたの心持ちです。
1. ダラダラと各都市の様子から語り起こされる
のと、
2. 結論をポンと最初に持ってきて、その後具体例を三つあげられる
のと、どちらが読みやすくわかりやすいか?ということです。
たとえ incredible, degree といった単語を辞書で引かざるを得なかったにせよ、2. の出だしの文章の構文が少し複雑であるにせよ、圧倒的に 2. のほうがわかりやすかったのではないでしょうか?
1. では克明に詳細を語ったにもかかわらず、バーバラは誤解されて終わったのです。いや、詳細をいきなり最初にダラダラ語り、読者を振り回したからこそ、彼女のメッセージは間違って解釈されたのです。ウルトラマンと同じですね。
メールの件名の中で結論をコンパクトに述べ(結論ファースト)、メールボディの中でピラミッドストラクチャを使えば、楽をして、正確に意図が伝わる英文メールを打つことができます。結論を絞り込み、3つのポイントを列挙するのに、英語の知識は全く必要ありません。
このように構造化されたビジネス英語のメールは、文字に書き起こしたエレベーターステートメントとなり、速やかに、受信者の的確なアクションをしてもらうことができるのです。
ビジネス英語メッセージの基本のキ
ビジネス英語をしゃべったり書いたりするときに、ピラミッドストラクチャを使うように私がオススメするのは、
受け手が自分の聞いている内容の「位置」を確かやすいため
です。
ピラミッドの構造は、サイトマップの役割を果たします。たとえば「結論はこれこれで、いま自分は根拠の二番めを聞いているのだな」と、パン屑リストのように自分自身をナビゲートできるため、混乱しないのです。
これなら、たとえ多少文法的におかしな文を書いたとしても、結論だけは誤解なく伝わりやすくなりますし、逆に、これを意識しないため、つまるところ何が言いたいのかわからない「ビジネス英語」をしゃべる外国人はごまんといます。
(私の偏見ですが、インド人とイタリヤ人に、ダラダラビジネス英語の使い手が多い気がします。)
コンサルタントの野口吉昭氏は、自著の「コンサルタントの質問力」に、P&Gの「三◯秒ステートメント」という企業文化を引用し、絶賛しています。
以下、「コンサルタントの質問力」からその箇所を引用します。
「現状の最重要課題は◯◯です。今期の我々の目標は、△△です。
課題を踏まえて、目標を達成するための実現策は三つ考えられます。
一つめは◯◯、二つめは△△、三つめは××です。
三つの実現策のメリット、デメリットを検証すると、◎◎のようになります。
よって、二つめの△△を提案します。意思決定をお願いします。」
このメッセージは、ピラミッドストラクチャを使用した、エレベーターステートメントの典型例です。すぐにお分かりの通り、「松竹梅のソリューション」は、ピラミッドストラクチャの条件を満たしているわけです。
P&G は外資ですね。これなら、事細かにしかしダラダラと状況を報告するよりも、はるかに英訳も簡単なはずです。
ウルトラマンの「ビジネス日本語」がイケてない理由
さて、効果的なビジネス英語を発信する前提条件を再度確かめるために、ウルトラマンの自己紹介も、レビューしましょう。
「M87星雲からやってきたウルトラマンと申します。
「40年前、不幸な事故でハヤタさんを死なせてしまったので、私と合体するすることで生き返らせ、地球に止まって、レッドキングやゴモラやアントラーとかと、それなりにいい感じで戦って撃退しました。ゴジラにエリマキつけただけのジラースとかもいましたね。
「ああ、そういえば、宇宙人をやっつけたいんですよね、今回は。バルタン星人とかもやっちゃいましたよ、わたし。ああいう根暗なやつは、たぶん、性格的に女の子にもてないと思います。一緒にご飯いっても箸持てないでしょうしね。
「私、世間ではスペシウム光線が必殺技だって思われてるんですけど、意外とね、使ってないんですよね、意外と。八つ裂き光輪のほうがフレキシブルなんで、個人的に使いやすいですね。ああ、そういえば、八つ裂きって表現が過激なんで、今は別名がついてるんですよ、知ってました?
「まあ最後は確かにゼットンにやられちゃっいました。はい、そのときはヘタレでご迷惑おかけしました。だけど、おかげさまで、挫折って大切だなって学びました。死んだ気になって頑張るって言いますけど、私、あんときゃ本当に一回死んじゃいましたからね、マジで。いや、つらかったー。
「というわけで、今回もいろいろ御社のために頑張れると思うんで、よろしくです。シュワッ!!
「ところで御社ってスポンサーどこなんですか?昔っから不思議なんですよ」
ここまで読み進めていただいた方には、欠点は明白かと思います。
一口で言うと、「要するに何が言いたいのか?」わからないのです。
その理由は、ピラミッドストラクチャ的にいうと、以下の3つです(笑):
1. チャンクが明確には設定されておらず、結論が不明確。
ウルトラセブンが「宇宙人を撃退するプロ」と、面接官の期待値に合わせて明確に自分を定義づけているのに対し、ウルトラマンは、自分自身を明確に、短く規定していません。
2. メッセージが構造化されていない。
ウルトラセブンの自己紹介はきちんとしたピラミッドストラクチャの形をとっていたのに対し、ウルトラマンのそれは、フォーカスが不明確な、聞いていて聞き手がどこにいるかわからない、だらしない駄弁りになっています。
3. 無駄な情報が多すぎる。
バルタン星人が女にもてないであろう話、八つ裂き光輪のネーミングうんぬんの話は、面接官にとって、全くどうでもいい話です。不必要な話を聞かせるということは、面接官に、無駄な時間を自分と一緒に過ごすことを強いている、ということです。
すなわち、ウルトラマンは、自分のメッセージの受信者である面接官を十分にリスペクトしていないということです。
根本問題は、M87星雲から来たウルトラマンが、きちんとした日本語、ウルトラマンにとっての外国語をしゃべれないことには、全くありません。実際、ウルトラマンは、昭和42年のデビュー当時から支障なく日本語を操っていますし(笑)。
日本語を発話する前に、自分の中でメッセージを整理していないことが問題です。
発話する者の頭の中がごちゃごちゃしている場合、それがコミュニケーションに乗って相手の脳に届く頃には、そのごちゃごちゃぶりは大きくなりはすれど、経路の途中で勝手に収束して小さくなることは、絶対にありえません。
受け手が質問の名人で、発話者の頭を整理するような質問をした場合、収束するように見えることがありますが、これはむろん、発話者の功績ではありません。
ましてや、これが母国語でない言語に変換されたとき、ますます混迷の度合いを深めるのは、火を見るよりも明らかです。
相手に誤解される頻度を下げるためには、まずは日本語の段階で、英語に変換前に、徹底的にメッセージをわかりやすく整理整頓するのが、間違いなく最も早道です。
繰り返しますが、質の良いコミュニケーションをする人、うまいビジネス英語の使い手とは、受信者から 「それはどういう意味だ?」 という質問を、ほとんど受けない人のことです。
余談ですが、ウルトラマンはウルトラ超人の中でも、最も博学だそうですので、こんなことには実際にはならないと思います。彼の名誉のために、付言しておきます。
高田貴久氏は、名著「ロジカル・プレゼンテーション」の中で、論点を外さないための対策として、
・目的をきちんと理解する
・横の論理構築力を磨く
・相手の知識・経験レベルを把握する
の3点を挙げています。
下記の本の第3章「仮説検証力ーー疑問に答えるステップ」をご参照ください。
ビジネス英語発信の前に準備すべきこと
しつこく申し上げますが、ビジネス英語を楽に操るコツは、
「日本語の段階で徹底的に自分のメッセージを整理する」
ことです。
このブログで取り上げているこのテーマ、ここが甘い日本人が英語を習っても、その効果のほどは疑わしいです。優先順位が必ずしも正しくないと思います。
下記のやり取りは、私が、かなり以前に、ある Windows アプリケーションをあるベンダ(下請け会社)に作ってもらったときのもの、伏せ字以外は原文のままです。このやり取りの前に、その当時の私のチームのカナダ人のエンジニアが、そのベンダに対して技術的な質問を二つ、投げていました。
ちなみに、この方は、外見から察するにどう見ても40代もしくは50代で、そのベンダのCTO的な立場をつとめておいででした。つまり、ベテランでなければならない年ですし、コミュニケーションがうまくない限りつとめてはならないポジションにいらっしゃいました。
ベンダ: 英語で対応する文言が分からないので日本語で記述します。
「××モード」など、アプリ〇〇が動作する上で、各□□が別プロセスで動くのかメインフレームと同一プロセスで動作するのか、また XYZ は 32bit で動作するのか、64bit で動作するのかが決まってきます。これは OS が 64bit かそうでないかの掛け合わせにもなります。
こちらでちょっと動かしてみて、(中略)が起こらないためいろいろ設定を変えて操作してみましたが、OS が 64bit かどうか、〇〇が 64bit かどうか、ーー機能(XYZや△△)が 64bit で動くモードかそうでないか、各□□がフレームと同じプロセス上で生成されるか、別プロセスになるのか、各末端の環境に合わせて用意しなければなりませんし、それぞれ確認しなければなりません。この組み合わせは弊社が先月に作成しました△△でも発注者様にご理解いただくべく資料を提供いたしました。
(……中略……)
私: (??何を言っているのか全然わからない……)申し訳ございません、一言でいうと、どういうことでしょうか?
ベンダ: すべての環境に対応できていないのではないかと言うことです。
私: (??わからん、いきなりどのチャンクの話をしている??)まず、どの質問に対する回答でしょうか?
ベンダ: 大前提ですので、それ以前の問題になります。
私: (いい歳こいて、何故それを先に言わない!?)なるほど………………………
で、うちのエンジニアは何を答えればいいのですか?
(こんなこと質問させるな!時間ないってのに!)
ベンダ: 一言にまとめます。
今回の件は、いろんな動作ケースのうち、××モードが ON で〇〇が 32bit 動作になる場合で起こっていて、他の動作ケースでは起こっていないということでよろしいでしょうか?
という質問に回答いただければと思います。
滑稽なことに、この直後、わたしが斜線部分だけを訳出して自分のチームのエンジニアに確認した結果、ベンダの疑問は解消されてしまいました。
つまり、それ以前のやりとりは、すべて、ベンダの思考を私がヘルプして整理するために無駄に費やされたのです。時は金なり、の忙しい現場では、むろん、許されないことです。
ここまでこのブログを読んできていただいている皆様には一目瞭然かと思いますが、このブログでやってはならないとしていることを全部忠実にやった結果、この悲惨な結果となりました。
・質問に答えない。この場合なら、「質問にお答えする間に、大前提を確認させてください」という前置きが絶対に必要。
・相手とチャンクを合わせない(相手の関心事を確認しない)で、いきなりこまごました内容に入る。
・結論が最後の最後、しかも、相手に誘導された後に、出てくる。
・不要なたくさん情報が入っている(先月に作成しました△△の情報、弊社側には、すべからく寸毫(すんごう)も価値がありませんでした)。
・フレームワーク(ピラミッドストラクチャなど)を全く知らない。
・一文がやたら長い。
加えて、一部、書いている日本語が日本語になっていない、という……
『英語で対応する文言が分からないので日本語で記述します。』
……本当に原因は、この方の英語力でしょうか?最初から結論の部分だけ英語で尋ねることは、彼にはできたはずです。彼にはその程度の英語力はありましたから。
この方が外国人とどうしてもコミュニケーションをとる必要があって、英語力向上のため、英会話スクールに10年通ったとします。果たして、英会話スクールの講師は、この掛け違い、齟齬の問題を解決できるでしょうか?そしてその問題の解決なくして、彼と外国人とのコミュニケーションは、どれほど改善されるでしょうか?
現に、私の部下のシニアエンジニアは、
「彼の英語は文法的にはかろうじて正しいが、何を言っているのか全然わからない」
とぼやいていました。
このブログが英会話の100倍効率的な学習法だと謳っている根拠は、このような
「元から断たなきゃダメ」
的なコミュニケーション能力の不具合に真っ向からアドレスしているからです。