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前回取り上げた受動態の問題は、この記事で、ついに根本解決します!
まずは、受動態の問題を引き続き議論していきましょう。
日本人が苦手としている受動態の実態を把握しておくことは、とても重要だからです。

ビジネス英語では常に真犯人を探せ!
ビジネス英語でやっかいな受動態、その2
News page update…….?何を?
前回からずっと議論している通り、主語のあいまいな、テキトーな日本語に馴れた日本人にとり、受動態は意外に難しいものです。

更新せよ!……って、だから、なにを?ちなみにこの update が名詞ということもあり得ません。
ウェブページを動的に更新するのが簡単になった最近ではあまり見かけなくなりましたが、インターネットの黎明期では、トップページ(いわゆる the home page)に、
What’s new!
と、最近更新された内容が掲げられていることがありました。
あるサイトオーナーが、自分で管理しているウェブサイトの、「ニュースのページ」を更新しました。
トップページの What`s new! の欄に、「ニュースページを更新」と英語で書き込みたいとします。
さて、何と書くべきでしょうか?
a) What’s new!
– The news page updated.
ここで、以下のように書いてしまっている日本のサイトが、昔は多数あったのです。……。今でもあるかもしれませんが、Google するのはやめておきます。
b) News page update.
これは、完璧に「ロジック」が誤った英語です。破綻した英語、英語になっていない英語です。同時に、日本人にあるあるの、「やっちゃった系」の誤りでもあります。
動詞は、当然、受動態の形をとらなければなりません。なぜでしょうか?
ニュースページは自分自身を更新できないからです。また、そもそも、b) には、ごっそり目的語が欠落しています。
b) ニュースページが(何かを)更新した。
……尻切れトンボですね。
サイトを訪問した人は、「え?……いったい何を?」となってしまいます。
ピリオドの前に、たとえば Page A という単語がきていれば、
b) News page updates Page A.
となり、目的語が補完されて、いちおう読める英語になります(三人称単数現在 updates に注意!)。
(でも、本当は正しくない英語です、これでもまだ。News page の前に “The” が絶対にこなければならないからです。冠詞を軽視してしまい、書き忘れる、これも日本人英語のあるあるです。)
おそらく、ニュースページになにかしかけが施されていて、何らかをトリガーにして、Page A を自動的に更新するのだろう、と解釈できますね。(でも、これはおそらくサイトの仕様の説明で、What’s new ! に書き込むような内容ではないです)。
いずれにせよ、(The) news page を先頭に持ってきて能動態で書き始めたら、その瞬間、アクションを起こす主体は、(The) news page に決まってしまいます。
日本人は、「うっかり」この形で書き始めてしまい、収集がつかないまま、書き終わってしまうケースがままあるわけです。
主語の選定が誤っているのです。「誰が、どうする/どうした、何を」の構造を考えずに主語を決めてしまう、それが根本原因です。
ていねいに書けば、a) の What’s new ! は次のように書けます。
a’) What’s new!
– The news page has been updated.
The news page は、「更新した」のではなく、「更新された」のです。
牛乳が「あっためた」のではなく、「温められた」のと同じです。
この受動態 passive tense を、能動態に書き直すと、以下のようになります。
a”) What’s new!
– The site administrator has updated the news page.
ページを「更新した」のは、もちろん The news page 自身などではなく、サイト管理者に他なりません。ただ、いちいち「サイト管理者が」と書かなくても自明だから、主体が働きかける対象物であるファイル名を主語にして、受動態で書いているだけです。
“Create” はビジネス英語ではない!
もう一例、似たような例を挙げてみましょう。
あなたが新しく作成したファイルを英語表示のファイル管理システム上にアップロードし、そのプロパティを見たとき、更新者であるあなたの名前が表示されているフィールドの名前は、必ず
b) Created
になっているはずです。ここで、
b’) Create
は非常におかしい、めちゃくちゃです。
(ちなみにこれは、日本人が得意とする、「動詞を原形で放り出」している文でもあります。)
しつこいようですが、ファイルは自分自身をアップロードできないからです。この場合の “Created” は以下の英文の略になっています。
b”) このファイルは、ピートによって作成された。
This file was created by Pete.
このように受動態は、日本人には扱いづらいのです。
”d” “ed” を付け忘れただけで、センテンスがまるで意味がなさなくなるのです。
b”’) このファイルは、ピートが作成した。
Pete created this file.
このほうが100倍わかりやすく、アウトプットしやすいですね。「ピートが、作成した、ファイルを」、めちゃくちゃシンプルです。
究極の解決策:
ビジネス英語では赤子泣いても受動態は使うな
このブログ「デバッグ英文法」は、楽をして最も高い効果を上げることを至上命題にしています。
受動態の問題でも、もちろん、楽をしていきたいものです。
学校で、能動態から受動態への変換の訓練を、英語の授業でさんざんさせられて、うんざりした記憶をお持ちの方も多いのではと思います。
ただでさえ苦い思い出?を思い浮かべていただいたのに追い打ちかけるようで申し訳ないのですが、あれは実は、職場でビジネス英語を使用しているわたしたちにとっては、はなはだ迷惑な訓練だったのです。
ほとんど意味ないばかりか有害でした、あのトレーニング!
なぜなら、前回とりあげた問題すべて、
そもそも最初から能動態で書いてしまえば問題の生じようがない
ものだからです。
「赤子泣いても受動態は使うな」だと、私は思っています。
これは、留学経験も海外駐在経験もないわたしが言い出したことではありません。
コーネル大学の英語の教授であった William Strunk は、名著の評判高い英文ライティングのハウツー本 “The elements of Style” の中で、
The active voice is usually more direct and vigorous than the passive:
能動態は、受動態よりも、常に直截的でエネルギッシュである
I shall always remember my first visit to Boston.
This is much better than
My first visit to Boston will always be remembered by me.
Strunk Jr., William. The Elements of Style, Annotated and Updated for Present-Day Use
と述べたあと、能動態を原則として使用することを、書き手に奨めているのです。
つまり、ネイティヴの中でも、英文ライティングの文章スタイルの権威ともいえるひとが、
受動態は使うな、もってまわっているし、かしこまった感じになるし、コンパクトじゃないから
と言っているのです。
ビジネス英語の現場においては、へりくだりつつも相手のおかしたミスを責めなければならないときなど、例外的なケースでしか、受動態を使わざるをえない場合はありません。
このブログでは、もっとも効果的な主語を選択することによって、受動態を適切に能動態に変換していく技術を取り上げていきます。
ビジネス英語では常に真犯人を探せ!
能動態の主体(Subject)を見つけ出す
さて、ビジネス英語において、受動態の問題を避けるためには、単純に、能動態オンリーでひたすら押していけば良い、という処方箋まで行き着きましたが、次にまた、絶対に避けて通れない関門が出てきます。
それは、
「主体」
の問題です。これは、ビジネス英語を取り扱う上できわめて重要です。
あたらめて定義すると、ここで「主体」Subject は、文章を
能動態で書いたときの主語
のことを指しています。
受動態 passive voice の文では、もちろん、主体は主語とは異なります。
ビジネス英語を扱うときに座右の書にしておきたい “Practical English Usage” から、受動態の例文をあげてみます。
a) She likes being looked at.
彼女は他人から見られるのがすきだ。
b) He hates being made a fool of.
彼は他人から馬鹿にされるのが我慢ならない。
……ほら、受動態って、解釈するだけでこれだけめんどうくさいんですよ(汗)。ぱっと見で理解しにくいでしょう?
(ちなみに上の文は、確かに、受動態でも仕方ないかな、とわたしでも思える表現です。しかし、明らかに、ビジネス英語ではほぼ使う局面が考えられない文でしょう。)
受動態の文には、本当の主体 Subject が出てこないことがしばしばあります。主体はその場合、いわば「真犯人」として、その文のアクション(述語)を「裏で」実行するわけです。
例えば、例文 a), b) の背後に隠れている主体 Subject は、世間一般の人々を漠然と表す They です。といってもわかりにくいですね。
もう少しわかりやすくしましょう。少し、品の悪い例を引きます。
あるヤクザ映画で鉄砲玉(刺客)が、抗争相手の暴力団の幹部に拳銃を突きつけ、
c) お前には死んでもらう。
といったとします。このセリフを英語に直訳すると、
c) You will be dead.
となります。このとき「主語」は、、You=抗争相手の暴力団の幹部 です。しかし、「主体」、つまり実際に引き金を引くのは、その鉄砲玉本人です。
英語ではこのような場合、必ず
c’) I will kill you.
おまえを殺す。
という言い方をします。これからアクション映画を見るときに、気をつけてセリフを聴いてみてください。
日本語では主体を強く意識しません。意識しないでも日本語だとなんとかごまかしがついてしまいますし、上の過激きわまりないセリフですら、c) の中に、前回取り上げた「遠慮の意識」が働いています。
実際には、これから自分の手にかけて殺すのに、「死んで」と、相手が別の原因で死ぬケースでもあてはめることができなくはない、「やわらかい表現」に丸めてしまっています。
なので、日本人は、主語と目的語をはき違え、英語にならない英語をアウトプットしてしまうことがあるわけです。
ここからは、扱いのめんどうな受動態の代わりに、能動態でわかりやすいビジネス英語をアウトプットしていく手法を説明していきます。
ビジネス英語のキモなので、長丁場になります。
能動態でわかりやすいビジネス英語をアウトプットしていくには、主体 Subject を、素早く的確に見つける必要があります。
言葉で言うほど、これは実際は、日本人にとっては簡単ではありません。
あいまいな日本の主語
このサブタイトルは、ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎氏が、何十年も前に上梓した
「あいまいな日本の私」
のもじりなんですが、まあ、そこはどうでもいいです……。
さまざまなロジックを言語で記述しようとするとき、日本人が持つ最大のハンディキャップは、日本語においては、しばしば主語が省略されるか、はっきりしないということです。
IT英語で「前の画面へ戻れない」をなんという?
たとえば、ITシステム開発の世界で出てきそうな下記の例文の主語が、本当はいったい誰であるのか、考えてみていただきたいです。
a) この画面には戻るボタンがないため、前の画面にもどれない。
どうです、意外と難しくないでしょうか?
というのも、事実上、この文には主語がないのです。
よく考えると、上記の文だけなら、状況によって、いろいろな主語を当てはめることができます。
例えば、プログラマーであるあなたが今まさにデバッグしていて、バグ(だとしたら相当に間抜けですが……)に、いまさら気づいてつぶやいたのなら、
a’) あっ、「戻る」ボタンをつけ忘れた、わたしは前の画面にもどれない。
「わたし」が主語になります。
いっぽう、このバグを見つけたのがテスターなら、そのテスター(固有名詞/彼/彼女)が主語です。
顧客と会議していて、この問題を指摘され、要求仕様どおりの設計であることを思い出してほしいのなら、
a”) いったんこの画面に入ってしまったら、戻るボタンがありませんから、もうあなたは前の画面にもどれませんよ。そういう仕様にしましたよね。
今度は、「あなた」が主語です。
このシステムがすでにウェブ上で世間一般に配信されており、制限事項としてマニュアルの上で説明したいのなら、
a”’) ユーザは前の画面にもどれません。ご注意ください。
「ユーザ」が主語です。ということは、このシステムを使っている人間なら、彼であろうと彼女であろうと、特定の人物であろうとよいわけですね。
しかしです、にもかかわらず、実は、英訳すると、この文の「主語」として考えられる代名詞は、一つだけなのです。
a) この画面には戻るボタンがないため、(誰であろうと)前の画面にもどれない。
You cannot go back to the previous page because this page does not have any back button.
#この英訳は、このシステムがウエブブラウザを使ったものだという前提です。
本バージョン「では」→主語は誰??
以下の例文の主語が、誰であるかも突き止めてみてください。
b) エラーが出るため、このソースはコンパイルできません。
c) 以下の機能は、本バージョンではサポートされていません。
d) 本バージョンでは、ファイルがダウンロードされている間、画面は操作できません。
前の記事にも書いた通り、「は」は、しばしば日本語の文の主語をぼかして、あいまいにしてしまいます。前回の記事には書きませんでしたが、「では」もそうですね。
「は」「では」だけでは、その前にきているのが主語がどうか、保証できません。せいぜい、「くることがある」程度のことしかいえません。
上記すべてに英訳をつけてみましょう。
b) エラーが出るため、このソースはコンパイルできません。
This source will not compile due to some errors you get.
c) 以下の機能は、本バージョンではサポートされていません。
⇒本バージョン(のシステム)は、以下の機能をサポートしません。
This version does not support the following features:
d) 本バージョンでは、ファイルがダウンロードされている間、画面は操作できません。
⇒本バージョンでは、システムがファイルをダウンロードしている間、(誰であろうと)画面上で操作は何もできません。
On this version, while the system is downloading a file, you cannot do any operation on the screen.
例文 b) は、英語に直しても、「は」の前にちゃんと主語がきているようにみえます。しかし、これは、むしろ例外です。その証拠に、「エラーが出るため」を、わたしは、
“due to some errors you get.”を
「エラーをゲットしてしまうため」
と訳しました。そのほうが自然です。
c) では、「は」の前に目的語が、主語は「では」の前にきていますね。
d) では、さらに、「では」「は」の前はおろか、主語が日本文にはいっさい現れていません。
このように、日本語においては、主語が誰であるかよく分からないまま、なんとなく意味が通じてしまうことが珍しくないのです。
ちなみにわたしが、日本語を整理整頓することで、
「誰が、どうする/どうした、何を」
をはっきりさせていることにご注目ください。
こうしない限り、日本人は、英語の最初に設置すべき主語をはっきりさせることができないのです。
ビジネス英語で受動態を使いたくなったら
ビジネス英語、特にIT英語で受動態(っぽいもの)を使いたくなったら、その文の主体は、
you/we/the user/the customer/it/they/the system
と考えてよいです。
これは、上記以外の主体、すなわち自分自身(I)含め、特定の誰か(he/she/固有名詞)のアクションを記述するのに、いかに日本人といえど、わざわざ受動態で書き表そうとは、あまりおもわないからです。
(ただし、今まで説明してきた通り、「遠慮の意識」が働いてしまうケースは別です。)
このドキュメントを作成したのは誰?
a) ちなみに、この設計書は誰によって作成されたのですか?
この質問を日本語で訊かれ、あなた自身がその設計書を作成していた場合、読者ならとっさにどう答えようとするでしょうか?
いかに日本人といえど、さすがに、
b) 私によって作成されました。
ではなく、
b’) 私が作成しました。
と答えたくなるのではないでしょうか?
英語に訳しても、受動態を使用した a’) より、能動態の a) のほうが、はるかに自然でわかりやすいですね。
a) By the way, who wrote this design document?
a’) By the way, by who(m) was this design document written?
b’) I wrote it.
(「作成する」という日本語に、”to write” という、中学英単語を当てているところにも注目してください。)
以下にもうひとつ、例文を挙げておきます。
特定の誰かが行ったアクションは、容易に能動態で記述できることがおわかりになるはずです。
c) この Excel シートは Tom によって変更され、チャートが追加された。
⇒Tom が Excel シートにチャートを追加した。
(Tom によって行われた変更がチャート A の追加のみなら、前半の動詞「変更され」は、まるごと省略すべきです。訳者本人の身のためです。)
Tom added the chart A to this spreadsheet.
(”a spreadsheet” という、日本人に馴れ染みのない単語は、覚えておくと非常に便利です。)
次回からは、いよいよ、最も効率的に能動態の主語を見つけていくプロセスを解説していきたいと思います。