ビジネス英語に欠かせないスタープレイヤー “we”

Barcelona

バルセロナの、高級住宅街の美しい街並み(筆者撮影)

 ”we” もまた、コンテクストによって、指すものが自在に変化する主語です。

 そして、ビジネスにおいて、「うちの会社」という言い方をしても、「わたしたち」とはあまり言わない日本人にとっては、馴れるまで少し時間がかかる代名詞です。

 しかし、いったん馴れてしまえば、相手をこちらの土俵に引きずり込むのに便利に使える道具でもあるのです。

バルセロナで “we” といったらだれを指す?

スペインの複雑な事情

 「結論ファースト」(「これだけは知っておこう!ビジネス英語で報告を行うときのコツ」参照)の主義に反して(笑)、突然、横道にはいります。

 スペインは、日本から見ると一つのまとまった国に見えます。(わたしも、スペインは、大好きな国の一つです。)が、実は、複数の民族、複数の言語、複数の文化を、無理をして一つにしている、複雑な内部事情を持つ国です。

 バルセロナが含まれるカタロニアは、いわゆるスペイン語、本当はカスティリャ語、を母国語 the local language とする人たちとは、文化がかなり違うそうです。

 カタロニアに住む人たちの現在のいちばんの焦点は、GDPです。自分たちの地方はスペイン国内でダントツの稼ぎ頭で、当然、納税額もトップです。

 彼らの感覚だと、

「ほかの地方が足を引っ張って自分たちの稼いだ金を無駄遣いしている」

となります。

 ゆえに、カタロニアの人たちは、

「ヨーロッパ史上前代未聞の、血を流さない独立」

のための活動をしています。

バルセロナで “we” というと

 バルセロナで、アメリカ人の友人が、会社を経営しています。

 仕事の話をしているとき、そのアメリカ人の友人が “we” を使うと、確実にそれは、彼と彼のチーム、彼の会社を意味します。

a) We provide this sort of consulting service to all over the world.
われわれは、この手のコンサルティングサービスを世界中に提供しています。

 また、わたしと彼は業界が同じ(ITサービスのセキュリティ)なのですが、彼が以下のように述べたとき、それは、わたしもひっくるめて、この業界の人みんな、を漠然と指します。

b) We security guys must pay due attention to IoT.
わたしたちセキュリティ業界の人間は、IoT に十分注意を払う必要があります。

 しかし、一緒に食事に出かけて、このカタロニアの独立の話をするとき、彼の “we” の指すものは、途端に変化して、カタロニアに住む人たちのことを漠然と指すようになります。

c) We are looking for the independence because we see the differences between Catalonia and the rest of Spain.
我々は、カタロニアとそれ以外の地方がこのような点で異なるため、独立を目指しています。

 彼がバルセロナへ移動した理由は、奥さんがカタロニアの出身だからなのですが、そこに定住することを決めてしまった彼にしてみれば、自分はすでにその一部なのでしょう。したがって独立も他人事ではないわけです。

 上の “we” に関して、ビジネス英語で注意すべきことがあります。

 上のすべての “we” に対して、互いに排他的な mutually exclusive な集団を刺すときには、”they” を使います。

 a) なら自社以外の stakeholders、b) ならセキュリティ業界以外の業界の人たち、c) ならカタロニア以外の地方のスペインに住む人たち、といった具合です。

 この記事では、この “they” も扱っていきます。

ビジネス英語で、”you” の次に守備範囲が広い “we”

 このように、”we” は、自社の社員全体、客先に対して自社側のチーム、自社内のほかの部署に対する自分たちのチーム、プロジェクトのチーム全体など、状況に応じてさまざまな意味合いを持つことができます。

 ”we” は “you” の次に「守備範囲」が広い代名詞といっていいでしょう。

ビジネス英語の会議で “we” を使い倒す

 会議では、最初から最後まで、”we” が使える局面が盛りだくさんです。

アクションをこなす “we”

a) We need to take this action as soon as possible as we don’t have much time.
時間がないため、このアクションはすぐにとる必要があります。

b) Let’s find out a way through which we can deal with this issue.
この問題に対処するための方法を探しましょう。

ファシリテーターの “we”

 会議のファシリテーターは、基本的には、”we” を主語にしてしゃべっているはずです。

c) So, now, we can probably get agreement on this issue.
さて、この問題に関しては、合意することができそうです。

 ブレストをやっているときなら、こんなことをファシリテーターはいうかもしれません。

d) I think that we have a lot of ideas now. Let`s start to consider which one would be best.
どうやらアイデアはたくさん出てきたようです。どれを選んだら良いのか、これから検討をしていきましょう。

 上の例文には、二つの代名詞 “we” が含まれていることにお気づきでしょうか。そう、”Let’s” は、”let us” を縮約した言葉ですね。日本人はうっかり忘れてしまいます(笑)。

プレゼンターの “we”

 新製品を社内でお披露目するプレゼンで、ブレゼンターによって “we” が使われたケースを考えてみましょう。

e) We believe this product will be another cash cow for us.
これは、当社にとって新たなキャッシュカウ(ドル箱)になりうる製品だと、わたしたちチームは信じています。

 冒頭の “We” は、プレゼンターであるチームの代表が使ったため、チーム全体を指すと考えるのが妥当です。しかし、最後に出てくる “us” は、明らかに会社全体を指します。このプレゼンターの念頭に、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が提唱するプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(Product Portofolio Management)のスキームがあって、その中の用語である a cash cow が使われているため、全社的な戦略の話をしていると考えられるからです。

ビジネス英語の交渉で “we” を使いこなす

 交渉の場で “we” を時と場合に応じて使いこなせると、非常に強力なツールになります。相手も自分側に取り込んで、

「何かを一緒にやっていこう」

と、強く訴えかけることができるからです。

a) Now we should cooperate with each other for our mutual benefits. Let’s have a WIN-WIN relationship.
お互いの利益のために、ここは協力しましょう。是非、ウィンウィンの関係を築きましょう。

 このような局面で効果的に “we” を使うために、それを変形させると、より「巻き込み効果」が期待できます。

b) Both of us together need to address this issue.
わたしたち双方が共に、この問題に取り組む必要があります。

経営者の著者がマネジメントに従事している読者に語りかけるための “we”

 
この章の最後に、わたしが非常に尊敬している経営者の一人 Andrew S. Grove が自著 High Output Management で非常に効果的に “we” を使用している例を引きたいと思います。

Though we can’t control our customers’ habits, we should try to smooth out our workload as much as possible.
顧客の習慣をコントロールすることはできないが、社員の作業負荷はできる限り平均化すべきである。

As noted, we should try to make our managerial work take on the characteristics of a factory, not a job shop.
上述のとおり、自社のマネジメントの仕事に、受注生産を行う工場ではなく、(大量生産をこなす通常の)工場のような性質を持たせようとするべきだ。

Accordingly, we should do everything we can to prevent little stops and starts in our day as well as interruptions brought on by big emergencies.
したがって、日々の小さなストップ→スタートの繰り返しのみならず、大きな非常事態により邪魔が入ることも、避けるように努力すべきなのである。

“they” の機能

世間一般の人々は犯人を見つけたの?

 「ビジネス英語でやってしまうと恥をかきます!受動態の取り扱い」で取り上げたとおり、日本語では、何気ない言葉でも、いつの間にか受動態で表現してしまっていることがたくさんあります。

 日本語には、「〜は」という、専門家の間でもその使い方について議論が分かれる、困った助詞が存在することが、その原因の一つかもしれません。

アルクの記事「ことばの仕組み(文法)分類:助詞(「は」と「が」)

 たとえば、推理ドラマによく登場するセリフの一つ

「犯人は見つかったの?」

は、よく考えると、受動態の形をしています。きっちり表現するなら、

「犯人は見つけられたの?」

となるはずです。

 ところが、英語の表現だと、ほとんどの場合で受動態は使われません。こうなってしまいます。

“Do they know who did it?” she asks in a deadpan voice.
「もう犯人が誰だかわかっているの?」彼女(主人公の奥さん)は無表情に尋ねる。

“No.” I flip the chicken breasts. “But I think I might.”
「いや」ぼく(主人公)はチキンの胸肉をひっくり返す。「でも、ぼくは知っているかもしれない」

Iles, Greg. Mortal Fear (Mississippi Book 1) 

 奥さんのほうが使った、この “they” は、警察関連の人たちを中心に、漠然と世間一般の人たちを指します。お互いに了解済みなので、「彼ら」で十分通じるわけです。

 日本語に比べて、能動態のみで行われるやりとりは、緊迫したものになっています。「彼ら」は知らないが、「ぼくは」知っている、という対立した構図になっているのです。

(なお、上記拙訳において、わたしが know を「もうわかっている」と訳したことにご注意ください。状態動詞である know の現在形は、このような「それは周知のことなのか」というようなニュアンスをもちます。)

 ビジネス英語において、この手の漠然と世間一般の人々を示す “they” が活躍する局面は、言っても、そんなにありません。

a) They conducted what they call a “SWOT” assessment, for strengths, weaknesses, opportunities and threats. 
彼らは、いわゆる SWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析と呼ばれるものを行った。

 しかし、”they” の示す人々は、最大でこんなにも多くなる、ということは理解しておく必要があります。

“they” は敵だ!?

 ビジネス英語においてもっとも頻繁に使われる They は、顧客企業/取引先/競合の企業の社員を集合として指します。

 「あの会社は」といったり、何回も名前を挙げて「××社は」といったりしない英語の特質から、このような状況で、”they” は使用されるのです。

b) They have a competitor’s service in their mind and they are doing some comparison between the service and ours in pricing.
あの(顧客)企業はコンペのサービスを検討しており、その企業のサービスとわたしたちのそれを価格面で比較検討しています。

c) I think they will not accept our order this time because they do not have enough resources who can do this job, hence, .
あの(協力)会社にはこの仕事ができる人員が足りないため、今回の案件を断ってくると思います。

d) They have a product which is very popular with the customer in this segment. 
あの(競合)企業には、このセグメントに人気の高い製品がある。

能動態の主語に困ったときの回避策

 さて、この記事の最後の部分で、

「能動態に変換したいとき、主語につまったらの回避策」

を扱っていきます。

 上の主語リストをもう一度見直しましょう。

you/we/the user/the customer/it/they/the system

 この中には、中高の英語の教科書には出てこなかった「代名詞?」が二つ含まれています。

 ”the user/the customer” と,”the system” です.

 これらは、ビジネス英語を日常的に使わざるを得ないビジネスパーソンに、ぜひ使い倒していただきたい便利な主語なのです。

回避策その1:”the user”/”the customer”

d) この機能は、現段階では別に必要とされていない。

もちろん、どんな文章だって、受動態で正確に記述できないことはないです。

d) This feature is not needed at this stage.

しかしもちろん、避けるべきです。

d’) ユーザは、現段階でこの機能を別に必要としていない。
The user does not need this feature at this stage.

 お気づきかもしれませんが、”the user” を主語として持ってくることで、誰がこの機能を欲していないかのかが、はっきりします。

d) の訳文だと、もしかしたら、システムを提供している会社の経営陣が「そんな機能いらないだろう」と主張しているのかもしれないわけですね。

 主体がはっきりする。これも、受動態と能動態の大きな違いの一つです。

 下記の文などは、能動態に「ひらく」ことで、急に英訳しやすくなる、典型的なビジネス英語の文です。

e) どんなサービスが望まれているのかをはっきりさせる必要がある。

 この日本文を見たら、はたと詰まる読者の方がいても、無理はないと思います。

 誰が主語なのかを、頭を絞って考えてみてください。

e’) 私たち当社の人間は、顧客がどんなサービスを望んでいるのかを、はっきりさせる必要がある。

e’) We need to identify which kind of services the customer(s) is/are looking for.

(ここでも、「望む」という難しめな単語を、”to look for” というとても単純な熟語に変換していることに注意してください。)

回避策その2:the system

 最後は、主にITを手がけているビジネスパーソンが主語の選択に困ってしまったときに使える究極の回避策です。

 以前の記事「ビジネス英語の最強のアウトプット術:「ビジネス絵語」で、

f) スパツリを使うと、通信を開始できるまで時間がかかってしまう。

を、状況を図示して見せた上で、

f) 「スパツリを使うと、通信を開始できるまで時間がかかってしまう。」

を、

f) With Spanning Tree Protocol, after the link up, switches need some convergence time to start communication.

と英訳してみました。

 わたしが主張したかったポイントのひとつは、英語で表現したとき、switches が最も状況を明確に説明できる主語だ、ということでした。

 このときの switches よりもさらに便利な無生物主語としてオススメなのが、

the system

です。これを主語にもってくるだけで、たいがいのシステムの動作は、受動態を使わずに記述できてしまいます。

g) このときは、この処理にたくさんのリソースがあてられる。
On this occasion, the system allocates a lot of resources to this procedure.

h) いまはキューが処理されている。
Now the system is taking care of the queue.

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