冠詞を気にする

進撃の巨人 attack on titan

進撃の巨人 attack on titan

攻撃禁止命令?

フライトの上で’進撃の巨人’の実写映画を見たことがあります。強く印象に残りました。

ぶっちゃけ、内容が面白かったからでは、残念ながらないのです。フライトでは沢山の映画が見放題ですので、見ている途中であっさり他の映画に変えてしまったくらいですから。

印象に残ったのは、映画が始まってタイトルの画面で現われた英語のタイトルを見て、おもわず笑ってしまったからなのです。

“attack on titan.”

というのが、英語版タイトルでした。確認してみたところ、原作の英語タイトルも、確かに同様になっていました。つまりは、最初からこの英語版タイトルです。

さて、このタイトルを見て、強い違和感を感じませんか?

まず、このタイトルは、見てすぐお分かりの通り、文法的に誤っています。中学生にも意味のわかる、このとても短い文が、文法的に誤っていること、それ自体、恐ろしいことですね。

そもそも、最初の attack が名詞なのか動詞の命令形なのかよくわからないのですが、何れにしても、最初の単語は大文字で始まらないと話になりません。なぜ小文字で始まっているのか、本当に理解に苦しむところです。

そして、もうひとつ、日本人、韓国人、中国人がしばしば無警戒におかす、もう一つの文法エラーが潜んでいます。

この映画は、ゴジラみたいな映画なのだな、と、ネイティブなら、間違いなく想像します。これがわたしが思わず笑ってしまった理由です。

わたしは「進撃の巨人」原作は面白いと思っていますので、このショボいタイトル、どうにかならなかったのかなあ、と残念に思いました。

みなさんは、これを見たときに、一瞬で、そのショボさ、このタイトルが内容と根本的に反することが、ピンときましたか?

このタイトルでは神龍は呼び出せない?

この感覚は、長らく英語で実務をこなしている間に、鍛えられたものです。その証拠に、高校生の頃は、間違いなく、このタイトルを見て何も気にならなかったと思います。

年齢がバレてしまいますが(笑)、わたしは、鳥山明氏が「Dr.スランプ」の連載を始めたとき、少年ジャンプを毎週読んでいました。「Dr.スランプ」が終わって「ドラゴンボール」が始まったとき、鳥山先生は、ようやく本来やりたいことができるようになったのだろうな、と思ったものです。わたしにとっては、最初に神龍(シェンロン)が出てくるまでは、冒険マンガとして大変面白いもので、毎週ワクワクしながら楽しみにしていたものでした。

ヨーロッパなどで出版され大人気の「ドラゴンボール」の英語版タイトルは、

“Dragon ball”

です。海外での出版開始当初からそうです。

注、蛇足ですが、わたしはフランス語を学習するとき、「Dr.スランプ」のフランス語版を読んで語彙を増やしていました。いました。「ドラゴンボール」のファンの方は、英語版を読んで英会話の語彙を増やすのも、一つのやり方かもしれません。

Dragon Ball (3-in-1 Edition), Vol. 1: Includes vols. 1, 2 & 3

Dragon Ball (3-in-1 Edition)

さて、「ドラゴンボール」を読んだことがある方は思い出していただきたいのですが、願いをかなえるためには、ボールはいくつ集めないといけないのでしたでしょうか?

……そうです、7個ですね。

今なら、この英語版タイトル、めちゃめちゃ違和感があります。しかし、高校生のときのわたしは、このタイトルに、何もおかしなところがあるとは思いませんでした。しかしいまは、輸出するときに、このタイトルは、しかるべき形に変えるべきだったと思っています。

そろそろわかってきましたね?(笑)

もう少し、マンガの話を続けます。

これもわたしが大ファンで、少年マガジン連載時毎週読みふけっていたマンガの一つに、リアルテニス漫画の最高峰ともいうべき、「ベイビーステップ」があります。学校秀才の普通の高校生が高校生からテニスを始めて、ノートに一球一球経路を記録し、びっしりメモを積み上げながら一歩一歩成長していき、ついには、プロになって活躍する物語です。

ベイビーステップ(1) (講談社コミックス)

残念きわまりないことに、このマンガは、打ち切りとしか思えない理不尽な形でその連載を終了したのですが、それはともかく、このマンガの英語版タイトルは、連載開始のときから、

Baby Steps

でした。すごく小さな違いにみえますが、実は、大したものです。作者の、主人公並みの几帳面さが現れている、と感じました。

主人公の英ちゃんが、渡米して向こうのテニススクールで大きく成長するエピソードで、このタイトルの秘密が明かされます。

帰国のとき、英ちゃんのノートにライバルたちが贈る言葉を書きつけるのですが、すでにプロとして活躍を始めていた、アメリカで対戦した中ではひときわ強いプレイヤー、アレックスが書き残したのが、

Baby Steps to Giant Strides
小さくても無数にある夢を一つ一つ確実にかなえていけ、それが大きな飛躍に繋がる

でした。この書き込みを見た英ちゃんは、ダーッと涙を流します。

一体にしか攻撃はかけてはいけない?

そう、「進撃の巨人」の英語版タイトル

attack on titan

を一目見たわたしが思わず失笑した理由は、

「攻撃していい巨人って、たったの一体かよ!あまりに厳しかろう(笑)」

と思ったからです。

「進撃の巨人」の大きな魅力の一つが、一体一体がすこぶる強くて、戦士として訓練された人間が寄ってたかって攻撃してもなかなか倒せない巨人たちが、わらわらとたくさん、人間の住む城砦都市に押し寄せて来て、

「いったいどうなってしまうのだ、人類・・・」

とハラハラする、そのスリルです。

しかし、このタイトルの titan には複数形の s がついていないので、押し寄せる巨人たちのうち、たった一体にしか攻撃をしかけてはいけないことになります。

かなり厳しい状況じゃないでしょうか(笑)。

同じように、えいちゃんがコツコツと努力を積み重ねて、一見突然大きく進歩する様子は、Baby Steps としない限り、絶対に表現不能なのです。

もしかすると、

「そんな些細なことにツッコミ入れてもしょうがないだろう」

と思われるむきもあるでしょう。確かに、「進撃の巨人」はともかく、ドラゴンボールのファンであるわたしが、Dragon balls に英語版タイトルがなっていないからといって、その魅力がわずかでも失われるとは、これっぽっちも思いません。

しかし、これがこと業務で使われるビジネス英語となったら、この一見

「些細な」

ミスの悪影響は、時として、はかりしれないものになるのです。

プロマネはなぜ、39度の熱をおして新幹線に乗ったか?

以下は、わたしが聞いた話です。

ある組み込みソフトウェアメーカーは、京都に本社のある、日本でも有数のハードウエアメーカーからの依頼を受け、イギリスにある、そのメーカーの子会社向けにソフトウェアを開発していました。

ソフトウエアが、最初から、全機能耳そろえてリリースされることはとても稀です。当時はまだウォーターフォール全盛だったこともあり、ご多分に洩れず、そのソフトウエアメーカーも、アルファ版、ベータ版、最終リリースと、多段階リリースで徐々に機能を追加していって、イギリスの顧客に、順にテストしてもらう形にしていました。

日本側でこのプロジェクトをマネージしていたPMが、あるとき、インフルエンザにかかりました。40度近い熱が出て、一週間の疾病休暇 sick leaves を余儀なくされました。それも、これからアルファ版をリリースしようとする、佳境のときに、でした。

あとで考えると、本当に、間が悪かったとしかいいようがありません。

このとき、

「自分は英語ができるからこのプロジェクトに入れて欲しい」

と自薦してプロジェクトチームに入ってきた若いエンジニアが、顧客とメールでやり取りしました。そのPMはそのエンジニアの英作文能力を高く評価していなかったのですが、

「巧みな英語をアウトプットできて、かつ、技術的にも優秀なエンジニア」

というのは、日本国内には、あまり見当たらないものです。背に腹は変えられません。

休みをとって三日と経たず、そのPMのケータイに、イギリスの顧客のチームリーダから電話がかかってきました。ちなみにそのチームリーダ、そのPMがインフルエンザだと知っていました。

熱でフラフラしながら布団の中で電話をとったそのPMに、開口一番、容赦なく、

「お前のところは契約不履行をするつもりか!」

と、怒鳴ったのです。

びっくりしたPMが事情を聞いてみると、そのエンジニアは、

“We release version.”

というセンテンスを、お客さまに、何度もメールで送っていました。

そもそもこの文は未来形 will release であるべきだということは、百歩譲っておいておいたとして、

version

が、複数形 versions になっておらず、かつ、the などの冠詞もついていない以上、海の向こうの顧客は、 

「このベンダーはアルファ版だけを単発リリースして、残りの機能をつくらずに、業務終了にするつもりだ」

と、ネガティヴに受け取らざるをえなかったのです。

結局、そのPMは、39度の熱があるにも関わらず、京都の顧客の本社まで新幹線で向かい、事情を話して誤解を解き、陳謝したのでした。これも日本の会社には あるある なのですが、そのPMをカバーすべき上長は、英語がしゃべれなかったのです。

さらに悲惨なのは、インフルエンザだとわかっていたので、冬場寒い中、顧客のオフィスに入れてもらえずに、駐車場で立ち話させられたそうです。

おかげでそのPMは、帰京して、さらに一週間寝込むことになりました。

単語が複数形になっていなかったからというだけで、これだけの悲劇が誤解によりもたらされたのです。

LとRの違いよりよほど深刻

英語のできる・できないに関してよく判断基準として挙げられる、

L と R の発音の違い

ですが、単複のミスに比べれば、はっきり言って、どうでも良いです。全く深刻ではありません。発音が悪くたってチャットで打てば修正はすぐできますからね。

余談ですが、NHKの「えいごであそぼ」という番組、リニューアルしたものを見たことがあるのですが、発音にえらく注力しています。おそらく、小さい頃に発音を身につけないとキレイな発音は身につかないという配慮でしょうが、大きなお世話です。発音なんて、実務上、日本人発音で充分に通じます。

進撃の巨人は、Attack on Titans としないと特にリヴァイみたいな歴戦の勇士にとっては到底やっていられないですし、Dragon Balls というタイトルでなければ、どんなに頑張っても、神龍は出てこないことになります。

私は採用面接をするとき、英語の試験と称して、ホワイトボードに二つのリンゴを書いて(わざと一部をかじったように凹ませます笑)、

「これを英語で表現してみてください」

とお願いすることがありますが、日本人の候補者の大半が、まんまと(笑)、

apple

と答えてくださいます。それも、会話では流ちょうっぽく喋ることのできる方が、です。ここできちんと複数形で答えられる候補者は、性格的にきちんとしているか、上に書いたように、実務でよほどの修羅場を踏んでいるのか、もしくは単に運よく注意力が働いたか、いずれかです。

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